第31章 祭りの後に・・(後編)

第31章 祭りの後に・・(後編)

さあ、8時からが、本当の祭りだ・・。
綱が取り払われ・・大人たちが全力でだんじりの後ろのテコに肩を入れてアップビートなる太鼓と鐘にあわせ何回も回転させる。
トップバッターの隅市町、布団だんじりが、だんじりの待機所、駅前駐輪所からメインの駅前ローターリに出ていった。

布団だんじりはくるくると華麗に何回転もして、真っ赤な天井の布団やぐらの上で染物屋の高次くんが宙に舞っていた。
だんじりがかっこよく急ブレーキで止まった瞬間、駅前ローターリーを埋め尽くしたギャラリーから割れんばかりの拍手が起こった。
2番手、大戸町のだんじりがロータリーに向かって出発した。

大戸町の太鼓は重い音で、鐘は心臓がズッキンズッキンするようなかん高い、なんとも言えない興奮のハーモニーをかもし出す・・。
小さな家くらいのだんじりは見事に6回移転し、、木製のコマが地面にこすれて摩擦で焦げ臭いにおいが立ち込める。

「うぉ~」とギャラリーたちから歓声が上がり・・もう興奮の渦の中だった。
さあ、、ぼくたちの番だ・・。
3番手、、この役割には意味がある・・。
おおとりの崎原町だんじりつなぐ役目がある。

祭りは山と谷、、谷の部分がぼくらのだんじりの意味だ。
小さい太鼓と高くも低くもない鐘の音、、
毎年、、最後の取りまわしのクライマックスを盛り上げる、引き立て役でちょうどよかったのだ。
何をおもったのか?越智のおっちゃんが、「いくぞ!!」と気合を入れた。

おっちゃんの目はいつもの優しい目から、鬼の形相になって・・こんな越智のおっちゃんは見たことがないくらい気合が入っていた。
会合の屈辱・・を取り戻したい、僕もそう思った。
太鼓に正樹くんが入り、僕は鐘の前に乗り込んだ。
いざ出発!!だんじりはロータリーに向かって進みだした、、その瞬間、
道脇で見ていた朝日屋食堂のキヨちゃんが、「あき君、天井に乗って踊ったり!!」と叫んだ。
越智のおっちゃんが「スットップ!!」と叫んで笛を吹いた。
「修司と武、太鼓と鐘変われ!アキと正樹天井乗ったれ!!」と言ったのだ。
僕の地区のだんじりは、天井で踊れる仕様ではなかったのだけれども・・興奮は最高潮!!ぼくは武に鐘のバチを渡し、、正樹くんと天井よじ登った。
おかんが「あほなことやめとき!!天井抜けるで!」と叫んで、見ていたおばちゃんも口々に「危ないからやめとき!!」と叫んでいた・・。
「うるさい!!いってまえ!」と越智のおっちゃんがいつになく男前に言って、、修司くんが太鼓を叩き始めた。

頭が真っ白になって、だんじりがロータリーに向かった。
ロータリーのど真ん中にだんじりが止まり、正樹くんとぼくは隅市町のまねをして、天井の上でぴょんぴょん跳ねた。
ロータリーは爆笑に包まれた。
チビだんじりに、中学生の屋根踊りは、それなり面白かったのだろう・・。
僕たちは絶好調で調子に乗った・・。
声は聞こえなかったのだけれども、正樹くんの口が「いもきんトリオ」と動いたのだ。
僕たちは目くばせして、太鼓のリズムにあわせて、流行っていた、いもきんトリオの「ハイスクールララバイ」をだんじりの天井で踊ってみた・・。
ロータリーはさっきの5倍くらいの笑いで包まれた・・。

もう、何がなんだかわからないほど、興奮していて、、とにかく気持ちがいい・・。
おおとりの崎原町が取り回しを終えて、、祭りの終わりに4地区の青年団が、ギャラリーのさったゴミだれけのロータリーに集合した。
安さんが、「今年の一番は大戸町東やったな・・」越智のおっちゃんに手を差し伸べた。

安さんに握手された越智のおっちゃんは、いつものメガネやさ男に戻っていたけれど・・・。
それはそれで・・
祭りの後に・・ものすごく・・かっこよかった。